奈良 墨運堂試墨体験

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昨年の秋から冬にかけて奈良西の京にある墨運堂さんで墨体験をさせていただきました。

IMG_1717これまでは私は中国の油煙墨を使って作品を描いていました。もうすこし日本の墨のことを知っておきたくて伺ったところ、永楽庵にはこれまで墨運堂さんが生産してきたたくさんの墨が置いてあって、無料で自由に試墨させてくれます。その中で特に素晴らしいのが昭和の『百選墨』です。その一つ一つが引き出しに入って保管されていて、気になる墨を取り出して試墨を進めました。

 

IMG_17291日に4本 午前中に2本、午後2本、4日間通わせてもらって、16本。墨の数え方は「挺」(丁)でしたか。端渓の硯でゆっくりと磨り上げていきます。

12月にお邪魔したときは奈良のさすがに冷え込んで、硯も冷えきっています。硯が冷たいと墨の下りがよくないというこで、5〜6面のすずりをあらかじめ、お日様の光にあてて暖めておいてくださいました。墨は煤とにかわででいているので、硯面が温かいとにかわ成分がとけやすい、例えて言うとなつのゼリーは冷蔵庫から取り出すと固さがゆるくなるのと同じ原理です。

 

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画宣紙に残された墨色の色見本を頼りに自分の好みにあう墨をリストアップして、年代の古いものから試墨していきました。墨の煤の原料には油煙と松煙があります。油煙墨はおもに菜種油ですが、ほかにもいろいろな油からつくらたものがあります。松煙墨にも生松松煙と落松松煙があり、出来上がった墨色はすべて異なります。100の墨には100の墨色がり、墨色の森、いや墨色の海、墨海にいるような感じを受けます。

 

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image1昭和の『百選墨』は墨運堂の先々代の社長、松井茂雄さんの偉業です。墨を磨らせてもらいながら、いろいろなことを思いました。これたの墨がどういう思いでつくられきたのか?「百選墨」は昭和45年ごろから製造がはじまりました。その時点で松井さんの中には100種類の墨の構想ができあがっていたようです。松井さんは平成6年にあと10種類あまりを残して他界されましたが、松井さんの意志は受け継がれ、平成9年に「百選墨」の製造は完了しました。四半世紀におよぶものでした。これらの墨のおおくはは40年以上という時間を重ねて、ゆっくりと変化しています。にかわの成分は50〜60年といわれていて、それを過ぎると少しずつ粘度は失われ、使えなくなっていきます。今いちばん素晴らしい発色を放つころといえるでしょう。

 

IMG_1753戦争の惨禍を経験した人々が、平和を願い、それぞれの人々の仕事のなかで誠実にそして人生に夢をもって一生懸命全力で生きたそんな時代、『百選墨』はそのひとつの果実のように感じました。ほとんど自分と同じ年齢の墨を手にして、その墨色の素晴らしさと一緒に、その時代の人々の思いをふっと手渡されたように感じました。