ヤドカリの夢

 

 

1999年ごろの作品。ウブな感じが今見ても心地よい。何も考えず、何も疑わず楽しく描いていた頃の作品。

娘が生まれて、毎日のように絵本を読み聞かせしていた。

初めて母親になって、親として子育てする大人の自分と、絵本お読みながら、そのお話を子供のように聞いている自分とがひとつになって、大人のような、子供のような感じの日々が過ぎていく。

画面の中のヤドカリの座っている砂の感じに点々を打つのはなかなか楽しい作業である。ひとつずつ丹念に点を打っていくと不思議に心が落ち着く。墨の小さな点たちが乾き始めたとき、薄い墨や色をたっぷりと垂らすと、点々の砂の上に海藻が漂い、揺らぎ始めた。

どこの海だろうか?

冷たいような、暖かいような深い海の底で、ヤドカリは静かに守られて夢を見ている。ヤドカリは娘? それとも私? 二人はゆっくりと成長していた。