ガッシュとクレヨンによる小品 1.

「ほうせん花 熟れて射程を 測りおり」

以前装画をさせていただいたことのある石丸真里女さんの句集(『石丸真里女句集』文学の森 2005)なかに 「ほうせん花 熟れて射程を 測りおり」 という素敵な句がありました。

この句集は当時真里女さんの卒寿の記念に出版されました。実はこの句集が出来上がった時、私はほとんど俳句というものに関心がありませんでした。ただただ、初めてさせていただいた本の装画とその装禎の出来ばえに満足するばかりでした。

この句は今回ウェブサイトをたち上げるにあたって、ふと手にとり、こころにとまった一句です。俳句の好きだった母が残してくれた歳時記を手がかりに「ほうせん花 」という言葉を探してみると、「ほうせん花」は秋の季語であることが分かり、紹介してみたくなりました。

昔のひとは「ほうせん花」の汁を絞って、爪を染めていました。韓国では初雪までその染めた色が残っていると、恋が実るという言い伝えがあるそうです。また触れるとその実がはじけることから、「わたしに触れないで」という花ことばを持っています。「ほうせん花」というとどこか愛らしく女性的なイメージを感じさせます。

 

石丸真里女さんの「ほうせん花」

 ところがこの句に読まれた「ほうせん花」はそんなイメージとかなり違っています。ずっと主体的なのです。「熟れて射程を 測っている」という表現がなんとも素敵です。

大正4年生まれの真里女さんの眼に、この「ほうせん花」は何を求め、その射程を測ろうとしているように映ったのでしょうか?それは恋する男性なのでしょうか?それとも親元を今にも旅立とうと機会を探している子どもたちなのでしょうか?

いずれにしましてもこの句にはみずからはじけて、新しい世界へと飛び出していくこうとするような潔さがあり、その潔さにこころを動かされます。そんな真里女さんが数ある絵のなかから、私の作品を選んでくださったことに喜びを感じます。もうお目にかかることはできなくなりましたが、時間をこえて、真里女さんに出会えるのは俳句という言葉の力であり、句集の持つ力であることにあらためて気づきました。そして自分はそんな句集という素晴らしいものをつくるお手伝いさせてもらったということを実感いたしました。

 

「ちぃんさぐ」

 沖縄では「ちぃんさぐ」ともよばれています。この絵は沖縄民謡の「てぃんさぐの花」という歌からインスピレーションを受けて生まれました。ガッシュとクレヨンで描きました。