チンアナゴを知っていますか?

 チンアナゴ  南日本の太平洋岸、琉球列島からインド洋、西部太平洋に分布する。サンゴ礁外縁部の潮通しのよい砂底に群れをなして生息する。後半身は砂に入り、体を外に出して潮の流れの方に頭を向け、流れてくる動物プランクトンを摂食している。側面に黒点を持つのが特徴である。和名は顔つきがイヌのチンに似ていることから。(美ら海水族館 ホームページ 熱帯魚の海 / サンゴ礁への旅・個水槽 展示解説より)

  画面中央にミミズが立っているようなのがチンアナゴたちです。美ら海水族館を訪れたとき、ジンベイザメもさるころながら、この不思議な生き物に釘づけになってしまいました。砂のなかに半分身をうずめ、ゆらゆらとしているだけの動物でした。なんて受身の動物?ただ流されないようにしているだけの動物でした。そんなチンアナゴをみているととても癒されて、忘れられない海の動物になりました。

 

 

  サンゴの海にはたくさんのいきものがいて、あれやこれやと描きたしていきました。サンゴの海に深海のにょろにょろとしたさかなたち、イガイガのあるウニ。イソギンチャクのような軟体動物、そして、フジツボのような硬い殻をもつ貝などもバリバリと噛める歯をもった大きなさかなも描きました。楽しかった。80号の大画面はあおい海の中になりました。

 

なにか違和感を感じられませんか?

 

 たぶん勘のいい方はもうこの絵がちっとも楽しくないことにお気づきでしょう。

    この作品は2005年にできたものです。2005年という年は私が福岡市アジア美術館で初めての個展をを開催した年でもあります。個展を前にもう一点大作を用しようと、準備していたのがこの作品でした。墨で海の中の生き物をあれやこれや描き終わった時、福岡西方沖地震が発生しました。今思えばその前の中越地震とあわせてこれが東日本大震災の序章だったのかもしれません。福岡は地震がこないといわれていて、よそから来た私も何となくそうだと信じていました。発生からちょうど1カ月すぎた頃もういちど大きな揺れがあり、この余震は約2カ月続きました。本震は勿論なのですが、数百回に及ぶ余震ほど精神を不安にさせることはありません。

   そういう中でいざ着彩しようとした時、わたしがえらんだ色、それは紫だったのです。その頃紫という絵の具を持っていませんでしたから、青系の絵の具と赤系の絵の具を毎日のように大量に混ぜ合わせて、制作しました。ある時は赤く、ある時は青く、大きな絵皿のなかでふたつの色が出会い、混ぜると、相反する色から混沌が生まれ、そしてその混沌から新たな色が生まれる。何度塗り重ねても、まるでつきることがないような情念の世界に沈んでいくような感じです。紫の深海です。この紫は自分の不安を鎮め、私自身を確かめる色でした。